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 虚空の惑星
 床一面に広がる、緑色に濁った生温かい液体。その蒸気が機械の起動熱と混ざっていた。人間の胎内にいるような、体液に近い臭いが立ち込め、ただそこにいるだけで気分を害しかねない。霞むほどに湿ったその室内の中央に、大きな水槽があった。高さ二メートル、直径一メートルほどの円柱の下部が壊され、そこから漏れた液体と飛び散ったガラス片が行き場を求めてあちらこちらへと広がっていた。中にあった何かが外へ飛び出したのか、連れ出されたのか……、水槽の下から部屋の隅へ向かって延びた足跡を辿れば人影が。
 こんなにも居心地の悪い室内だというのに、実験器具の並んだ棚の陰に、一人の男が小さな少女を小脇に抱え、息を潜めてうずくまっていた。長い金髪の、美しい全裸の少女は無造作に厚手の毛布で包まれ、しかし、吸水率の悪い生地が仇となっていつまでも濡れた身体が乾かず、恐怖と寒さで震えている。男は罰が悪そうに彼女を抱きしめ、
「大丈夫だ、俺が救ってやる」
 と、無精髭の生えた顔を彼女の頬に寄せた。



1・逃亡」より抜粋